D級GaN MOSFETアンプはなぜ音がよいのか?

D級GaN MOSFETアンプの音の特徴を動作原理から考察します。

 

まず、入力された音声信号は自励発振している積分器で、

900kHzから450kHz程度のサンプリングレートで三角波に変調されます。

 

つぎに、三角波は比較器で矩形波に変調されて、

レベルシフト回路、デッドタイム回路、ゲートドライバを経由して

GaN MOSFETを駆動します。

 

最後に、GaN MOSFETの出力は積分器にフィードバックされるとともに、

LPFを経由してスピーカーを駆動します。

 

回路構成としてはの3ステップなのですが、音質の面からは、

まず、アナログ信号を非常に高いサンプリングレートで処理して、

パッシブフィルタでスピーカーに出力していることが上げられます。

 

つぎに、積分器のオペアンプは入力信号に対して、

自分自身のクローズドループをオープンループのコンパレータ以降の

GaN MOSFETからのフィードバックによってコントロールしているため、

遅延要素が極めて少ないことが上げられます。

 

最後に、PWMアンプの特徴として、LPFを経由しますが、

常に電源レールの最大値でスピーカーを駆動することがあげられます。

 

例えるなら、ガソリン自動車と電気自動車の加速感の違いといった感じでしょうか。

 

結論として、

GaN MOSFETの高速性をストレートに発揮できるデバイスとシンプルな回路構成が、

高音質を生んでいると考えます。

 

D級GaN MOSFETアンプの参考資料

D級GaN MOSFETアンプ製作のための参考資料をまとめておきます。

 

トランジスタ技術 2008年3月号

特集

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高効率パワー・アンプの作り方

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D級アンプの製作[プリント基板付き]

 

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トランジスタ技術SPECIAL No.98

パワー・エレクトロニクス回路の設計

ロスのないスムーズなコントロールを目指して

 

SiC MOSFETアンプのエミッタディジェネレーションの調整

SiC MOSFETアンプのドライバ段のエミッタディジェネレーションを調整して、

電源レールを効率よく利用できるようにします。

回路図はこちらです。

上下のドライバ段のBJT(2SC4883A, 2SA1859A)のコレクタ抵抗とエミッタ抵抗を10Ω/100Ωに設定しています。

従来は、これらの抵抗を歪率と対称性を重視して100Ω/100Ωに設定していました。

しかし、対称な設定では、出力段のMOSFET(SCT2450KE)の駆動に利用していない側の

コレクタとエミッタの電圧振幅も電源レールを占有ししまうため、

出力電圧の振幅が制限されていました。

 

LTspiceによる過渡応答(1.3V, 20kHz正弦波入力)はこちらです。

エミッタディジェネレーションを10Ω/100Ωにすることで

青のコレクタ電圧、赤のエミッタ電圧の振幅を小さくした結果

ゲイン20倍で、+-27Vまで出力振幅が取れています。

 

この非対称なバイアス設定によるB級動作での大振幅時のTHD-20の増加はわずかで、

小入力時のA級動作での影響は相対的に無視できるレベルです。

LT1166はバイアス電流積を一定になるよう制御するため、

プッシュ動作時とプル動作時でバイアスが変動します。

このため、BJTコンプリメンタリドライバによるMOSFET準コンプリメンタリ出力が

容易に実現できます。

 

試作機でも、問題なく動作しています。

 

D級GaN MOSFETアンプの積分器の調整

D級GaN MOSFETアンプの積分器の設計方法をまとめておきます。

まず、Application Note AN-1138 IRS2092(S) Functional Description

から自励発振周波数に関する部分を引用します。

Self-Oscillating Frequency

Self oscillating frequency is determined mainly
by the following items in Figure 2.
· Integration capacitors, C1 and C2
· Integration resistor, R1
· Propagation delay in the gate driver
· Feedback resistor, RFB
· Duty cycle
Self oscillating frequency has little influences
from bus voltage and input resistance RIN.
Note that as is the nature of a self-oscillating
PWM, the switching frequency decreases as
PWM modulation deviates from idling.

これによると、自励発振周波数は、

積分器(LT1363)のCR定数だけでなく、

ゲートドライバ(IR2110)のプロパゲーションディレイ(最大150ns程度)と

フィードバック抵抗(入力抵抗との比率でゲインが決まる)

にも依存します。

また、デューティサイクルに応じて

自励発振周波数がPWMの変調に応じて

アイドル時から大きく変わるのは、

自励発振式D級アンプの特徴です。

 

実際の積分器は理想積分器ではないので、

+-5V電源でのLT1363のアウトプットスイング(+-3.4V)が制約になります。

LT1016のコモンモードレンジ(-3.75V~+3.5V)は越えない範囲です。

 

これらの条件を考慮して、

最大入力(最大出力)でも積分器の出力が

アウトプットスイングの範囲に収まるように定数を決定しました。

 

実際の回路図はこちらです。

LTspiceによる過渡応答(20KHz, 1V正弦波入力)はこちらです。

青が積分器(LT1363)の出力でコンパレータ(LT1016)をドライブしています。

緑は積分器の入力です。

赤はD級アンプの出力です。

 

アイドル時の積分器の振幅は+-2.2Vで、

入力に応じてアウトプットスイング(+-3.4V)の範囲を移動することがわかります。

理想的には三角波ですが、

アウトプットスイングが壁になる形で、

波形が歪むことがわかります。

 

シミュレーションでのアイドル時の自励発振周波数は895kHzで、

左右のチャネルでビートを回避するために、

もう一方は積分抵抗を1.2kΩ(933kHz)としています。

 

試作機のアイドル時の自励発振周波数の実測値は

710kHz(1kΩ), 718kHz(1.2kΩ)となっていますが、

電源の干渉によるビートは発生しないようです。