D級GaN MOSFETアンプはなぜ音がよいのか?

D級GaN MOSFETアンプの音の特徴を動作原理から考察します。

 

まず、入力された音声信号は自励発振している積分器で、

900kHzから450kHz程度のサンプリングレートで三角波に変調されます。

 

つぎに、三角波は比較器で矩形波に変調されて、

レベルシフト回路、デッドタイム回路、ゲートドライバを経由して

GaN MOSFETを駆動します。

 

最後に、GaN MOSFETの出力は積分器にフィードバックされるとともに、

LPFを経由してスピーカーを駆動します。

 

回路構成としてはの3ステップなのですが、音質の面からは、

まず、アナログ信号を非常に高いサンプリングレートで処理して、

パッシブフィルタでスピーカーに出力していることが上げられます。

 

つぎに、積分器のオペアンプは入力信号に対して、

自分自身のクローズドループをオープンループのコンパレータ以降の

GaN MOSFETからのフィードバックによってコントロールしているため、

遅延要素が極めて少ないことが上げられます。

 

最後に、PWMアンプの特徴として、LPFを経由しますが、

常に電源レールの最大値でスピーカーを駆動することがあげられます。

 

例えるなら、ガソリン自動車と電気自動車の加速感の違いといった感じでしょうか。

 

結論として、

GaN MOSFETの高速性をストレートに発揮できるデバイスとシンプルな回路構成が、

高音質を生んでいると考えます。

 

自分の聴きたい音を作る

結局の所、自作アンプの究極の目標は

自分の聴きたい音を作ることにあります。

現在、制作中のUHC MOSFETアンプの設計目標をまとめておきます。

1. ヘッドフォンで聴いているオペアンプの音をスピーカーでも聴きたい。
音楽製作自体がデジタルで完結するため、

ヘッドフォンで聴いている音とスピーカーで聴いている音の傾向を合わせたい。
デジタル音源やDJミキサーは、オペアンプやICの塊なので。

 

2. 周波数特性よりも過渡特性
体感的に聞こえる周波数は40~15 kHzで十分だが、

ダンスミュージックなどのキックとパーカッシブな音がきちんと聞こえることが重要。
ハイレゾのためというよりも、矩形波の立ち上がりと立ち下がりを鈍らせたくないので、

NFBを減らして100kHzまで通過帯域と位相特性を確保している。

 

3. 歪率よりも瞬時電流
低音と高音の切れのためには、瞬時電流が必要で、

瞬時電力を維持するためには発熱を抑えられる

低オン抵抗のMOSFETが必要なので準コンプリメンタリになり、
入力容量が増えるためゲートストッパーが必要で

歪率はトレードオフになる。

 

4. 工芸品ではなく工業製品
オーディオ用に限らず、
リード線のアキシャルなディスクリートの部品は、
どんどん生産中止になっているため、
電源用や車載用など、
他の市場用途での性能向上や量産が
見込める部品や構成を採用する。

すでにオーディオ、特に家電は衰退産業なので、
ニッチな高級品マーケット、安価なAVや普及家電、
SRなどのエンターテイメント産業向けの用途しか残らないでしょう。

趣味性よりも実用性重視ですが、
自分の目的に合わせた設計が自作やカスタム製品の
優位性なので。

 

高価なアンプほど音は良いのか?

よく、100万円と3万円のアンプの音が聞き分けられるか?
といった記事や企画を見かけます。

オーディオ雑誌でもブラインドテストによる企画記事はたくさんあります。

この手の企画の背景として、
高価なアンプほど音が良い、
お金がかかっているんだから音が良いに決まっている、
音が良くなければ困る、
という期待や希望、欲求、要求があります。

でも、これって、実際に設計、製作してみるとカラクリがわかります。

現実的には、音の善し悪しの大部分は電子回路の設計で決まり、、
回路基板と部品の値段は、量産できれば大きく下げられます。
一方で、高価なアンプの値段の大半は、
電子回路と電源以外の部分につぎ込まれています。

わかりやすい例としては、ICアンプがあります。

音の心臓部であるICの値段自体は数百円です。

なので、3万円でも十分な音質は達成できます。

では100万円の高級ICアンプは、

一体どこにお金がかかっているのでしょうか?

 

これも、調べるのは簡単で、

その製品のホームページなり、

パンフレットを見れば一目瞭然です。

 

電子回路以外の部分の宣伝文句全てが、

高価になる原因です。

 

例えば、アルミ削り出しのシャーシ、
真鍮削り出しの大型スピーカー端子、
銅削り出しの大型ヒートシンク、、
鋳物のトランスカバーなどなど。

 

振動対策や放熱、

馬鹿げたスピーカーケーブルや接続方法のための端子など、

およそ普通の人の耳や意識には上らない、

物量や製作コストがかかる部分の煽り文句が、

さも物理的、工学的に意味があるように書かれています。

 

もちろん、何らかの物理的な変更は

大なり小なり音には影響します。

例え、それが機械的な振動でも、

熱的な振動でも、

電磁的な振動でも、

果ては心理的な影響にも。

 

マーケティング的には、

特定の最終消費者が満足すればよいので、
問題ありませんが、

科学的、工学的知見の薄い
一般消費者をミスリードしている感は否めません。

 

もちろん、大手のメーカーやブティックは、
フラッグシップから中級機、入門機と
いろいろな価格帯のモデルを用意しています。

 

当たり前ですが、オーディオショップや量販店で試聴して、
違いがわからなければ、
音質的には安い方で十分ということです。

 

自分で自分の感覚が信じられない人にとっては、
オーディオは鬼門です。

 

どんな理由付け、理屈づけ、盲信、狂信、執着、拘りが
まかり通っているからです。

 

音は目に見えないだけに、
たちが悪いのです。

 

対称性の良い回路のアンプは音が良いのか?

コンプリメンタリ回路に限らず、

バランス回路、差動回路など、

オーディオアンプ回路の設計で、

対称性という言葉がよくでてきます。

でも対称性が良いからといって、

音が良いということになるでしょうか?

回路図はあくまでも電気回路としてのトポロジーと

基本的な回路定数を記述しているだけです。

つまり、モデルとしての記述であって、

実際の回路動作を構成する
デバイスの特性や定数とは常にズレがあります。

もちろん、基本的に対称性のある回路の方が、

歪率など一部の特性には明らかな好影響はあります。

しかし、もちろん限界があります。

つまり、いくら回路の対称性を向上しても、

正弦波入力に対する歪率ゼロなどの

理想的な特性は実現できません。

例えば、コンプリメンタリーなBJTでも、

NPNとPNPでは、物理的な振る舞いが違うので、

デバイスの特性までは対称にならないからです。

また、バランス回路や差動回路では、

抵抗の比率が正確に一致することが必要ですが、

抵抗には高精度の抵抗でも許容誤差があります。

同様に、コンデンサには、抵抗よりも大きな誤差があります。

回路の引き回しまで含めると、

実際のデバイスのピン配置だと、

3次元空間では、どうやっても対称にならない場合もあります。

また、バランス回路やBTLなど、

対称性を導入するために回路規模が2倍になる構成は、

対称性の構成要素自身のマッチングを取ることとの

トレードオフになります。

アンプの外側に目を向けると、

音楽信号もスピーカーの周波数特性も

部屋の残響も人間の聴覚も、

非線形で非対称な要素ばかりです。

なので、対称か非対称かに関わらず、

どのメリットを取るのか、

捨てるのかというのが設計としては、

一番重要な判断になります。

SiC MOSFETがオーディオアンプに使いにくい理由

ロームのSiCパワーデバイス・モジュール アプリケーションノート

読んでいて気が付いた点をまとめておきます。

 

SiC MOSFETの特徴として、
プレーナー型であるというのがあります。
おそらく、これがオーディオアンプに応用した場合の
・豊かな音響表現
という特徴につながっていると思われます。

 

しかしながら、600V未満の耐圧ではSiに対して
メリットの小さい領域とあります。

しかも駆動ゲート電圧が13V以下では、
熱暴走の可能性があるので使用するなとあります。

 

また、オーディオアンプでは、

ゲート閾値電圧から飽和電圧までを
ゲインに応じてリニアに使うので、

余分な電源電圧が必要になります。

 

あと、ゲート容量とオン抵抗も

オーディオ用途としては、
決して小さくありません。

 

トレンチ構造のSiC MOSFETも開発されているようですが、
オーディオ用途としては、

プレーナー型とは音が変わってくるはずです。

 

アンプの増幅方式はなにがよいのか?

アンプにはA級、AB級、D級などの増幅方式の種類があります。
A級はクロスオーバー歪みがないので音質的には良さそうですが、
電力の50%は熱として捨てる事になります。
コンデンサに限らず熱で電子部品の性能や寿命は劣化します。
なので、実際の回路全体の動作時の歪みや性能は、
熱設計を考慮しないとうまく実現できません。

一般的なのはAB級で、特にBJTのSEPPコンプリメンタリ・ダーリントン接続回路が

オーソドックスなアンプの構成のようです。
MOSFETの場合、SEPPコンプリメンタリ、準コンプリメンタリ、

フローティングアンド・バランス回路などが用いられます。

 

D級は、PWMでスイッチング電源と同じような形で

電力増幅してスピーカを制御するので、電力効率は一番高いです。
出力素子としてはMOSFETやD級アンプ用のICが使われます。

 

その他、自作アンプの回路としては、
金田式、窪田式などいろいろネットで検索すると出て来ます。

 

また、ディスクリート以外にも、ICアンプとして、
LM3886やTDA7293, TDA7294なども作例がたくさんあります。
実際、これらのICは高級オーディオアンプにも使われています。

 

アンプの電源はなにがよいのか?

アンプの電源は、トランスと整流回路および平滑コンデンサによる

シリーズ電源が通常用いられます。

スイッチング電源も利用できますが、スイッチングノイズの対策が困難なので、

音質を重視する場合は、あまり採用されていません。

バッテリーを用いる方式もありますが、
充電回路が必要なことやバッテリー交換の手間がかかります。

 

トランスは、トロイダルとEIどちらも用いられますが、
自作アンプはトロイダルやRコアが多いようです。

 

整流回路はダイオードブリッジ回路が一般的で、
ファストリカバリ・ダイオード、SBDなどがよく用いられます。
SiC SBDは、逆回復時間が短くノイズが少ないため、
オーディオ用途には魅力的ですが、
平滑コンデンサの突入電流を考慮して選択する必要があります。

現在の試作を進めているプロジェクトでは、
理想ダイオードブリッジコントローラによる
MOSFETのブリッジ整流を採用しています。

電源用のMSFETはオン抵抗が数mΩのものが選択できるので、
発熱と電圧降下の点で、ダイオードブリッジよりも有利です。

 

一番、重要なのは平滑コンデンサの選択ですが、
許容リップル電流が大きい電解コンデンサで、
出来るだけインピーダンスが低くなるような回路設計をします。

また、大きな突入電流に耐えられる電源用のスイッチも必要です。

シミュレーションをするとわかりますが、
26Aから5A位のスパイクのような充電電流が100/120Hzで、
コンデンサに流れ込むため、
コンデンサが常に振動していることになります。

 

また、ダイオードやMOSFETのスイッチングノイズも、
パスコンなどで吸収する方がよいでしょう。

出力にレギュレータや小さな抵抗を入れる場合もあるようですが、
電圧降下やローインピーダンスとのトレードオフになります。

 

アンプの増幅素子はなにがよいのか?

アンプにもいろいろな種類がありますが、
一番わかりやすい分類は増幅素子の種類によるものでしょう。

アンプの増幅素子としては、
真空管と半導体(トランジスタ)が一般的です。

真空管アンプは自作するとなると、
高電圧を扱うため部品が大きく高価になるのと、
真空管はガラスなので壊れやすいので難易度が高いです。

一方で、トランジスタも大きくBJTとMOSFETのアンプに分かれます。

BJTによるアンプは多様な回路例があり、
最も一般的な増幅素子でしょう。

一方で、MOSFETによるアンプは、
どちらかというと少数派の増幅素子です。

アンプの回路は主に3つの段階

(入力段(IPS)、増幅段(VAS)、出力段(OPS))で構成されますが、

出力段にどの種類の増幅素子を用いるかで、
特性が大きく変わります。

増幅素子それぞれの善し悪しがあるので、
その選択基準には何を重視するか、
つまり設計思想が必要です。

 

現在、試作を進めているプロジェクトで、
MOSFETを選択している理由はいくつかありますが、
少ない素子で簡単に大きな電力を制御したいというのが
最大の理由です。

オン抵抗が小さく、大電流が制御でき、

発熱も小さく、熱暴走しないのが、MOSFETの利点です。

 

一方で、不利な点は、

オン抵抗は入力容量とのトレードオフになっているので、

発振しないように周波数応答を制限する必要がある点です。

また、BJTよりも大きな制御電圧(ゲート電圧)が必要なので、
より高い電源電圧が必要になります。

さらには、通常はコンプリメンタリ(Pch)のあるMOSFETが少ないので、
回路構成が限定されます。

 

しかし、Nchだけでよい回路構成を選択すれば、

MOSFETの選択肢は格段に多くなります。

しかも、MOSFETは現在もマーケットの拡大に伴って、

デバイスの性能向上が続いているので、

そのメリットを享受できます。

音が良いアンプとは

音が良いアンプを教えて下さいという質問をよく見かけます。

しかし、この質問に答えるのはなかなか難しいのです。

まず、アンプだけでは音になりません。
当たり前ですが、音源とアンプをつないだ、
スピーカーかイヤホン、ヘッドホンを経由しないと、
耳で音として聴くことはできないからです。

つまり、音源とスピーカーの影響による音の変化を受けずに、
アンプの音質は知覚できません。

また、部屋の空間による残響や、
聴く人自身の認知心理も影響します。

また、見落としがちですが、
音源とアンプは電源を必要とします。
特にアンプはスピーカーを駆動するために、
大きな電力、つまり電圧と電流を制御します。

よく、アンプの音は電源を聴いていることになると
言った表現を見ます。

実際、アンプは電源のパワーを元に、
音源の音声信号を元に電源の電力を制御して、
音源の音声信号と同じ形を保つようにスピーカーを駆動するのが仕事です。

しかも、スピーカーは通常、
電磁石(ボイスコイル)を利用したリニアモーターなので、
周波数応答を保ったまま制御するのは、力学的にも大変です。

また、電子工学的な特性の良いアンプというのは、
よく見かけますが、
一般的なアンプの性能を示す特性値は静的な特性なので、
音声信号のような動的な信号を駆動したときの特性を
多面的には評価できません。

なので、実際には音が良くなる

(音源の信号を正確に増幅して

スピーカーのような性質の悪い負荷を駆動できる)と期待される
特性を向上させる、

もしくは性能面のバランスをとれるように、
デバイスの特性の選択や回路の配置などを工夫しているというのが、
現実のアンプの設計や製作です。

誰も聴いたことのない音を作る

なぜオーディオアンプを作るの?とか、
アンプを作って何になるの?とか
よくきかれます。

 

究極的には、アンプを実際に作ってみて、

誰も聴いたことのない音を、聴いてみたいという、

欲求充足行為だと自分では認識しています。

 

あらゆる趣味や道楽は、このあたりの、

好きとか面白いとか、製作の達成感とか、

そういった感情に基づいていると思います。

 

なので、結局の所、

オーディオアンプを作るということは、

自分の聴きたい音を聴くための道具を作っている

ということになります。

 

もちろん、既製品で満足できれば、

わざわざ自分で設計して製作するということはしません。

 

この、既製品で満足できないというのは、

いったいどういうことでしょうか?

 

この満足という感情は、

普通の人は音の好みや見た目、値段で決まるのでしょうが、

どうやらオーディオマニアや自作する人は、

それだけでは決まらないようです。

 

いわゆる、こだわりというものが満たされる必要があります。

 

ブランドにこだわる人、

値段にこだわる人、

部品にこだわる人、

増幅方式にこだわる人など、

実にさまざまです。

 

このように考えていくと、

自作する人に取っては、

実現したい設計思想が最も重要だということに行き着きます。

 

なので、実際の設計や製作に採用した案だけでなく、

採用しなかった理由や設計時に考慮した内容にも、

別の機会や他の人に取っては価値があると考えます。

 

実際、いろいろな設計事例や製作記事などを調べているときにも、

これらの周辺情報はかなり読み込んでいて、

自分自身の設計思想に影響を及ぼしています。

 

そこで、設計や製作の合間に考えていることも、

設計思想として公開していきます。